手のなる方へ
 使い捨てカメラが、軽薄な音を立ててシャッターを切った。
 清潔を通り越して、拒絶のような冷たささえ感じる青白い蛍光灯の光と、手垢すら残ることができない、白々した無駄に高い壁のおかげで、レフ板は必要なかった。
 だが、ネガフィルムに収められた映像は、現像に出すまでその出来を確認できない。この写真の完成形は、今は確認しようがない。
 ピントがボケている可能性も考え、念のために違う角度から何度かシャッターボタンを押して被写体を撮影する。満足いくまで現状をネガフィルムに収めてから、やはり無駄に広々とした廊下で、教師と会話している被写体もとい跡部部長を眺める。
 意味不明もはなはだしいが、俺――氷帝学園、二年F組所属、日吉若――の所属する報道委員とは、新聞部の制作する【校内新聞クレマチス】に、写真と一部の記事と学校からの連絡事項を提供する委員会だ。
 つまり新聞部の部下であり手先であり、記事内容をある程度確認し検閲でき、噂の捏造もそれなりに簡単に出来てしまうし、問題を揉み消すこともできるという特権を持つ。
が、俺の撮った写真のほとんどは却下ばかりされている。どうやら未確認飛行物体や宇宙人、UMAの話題は、新聞部と学校のお気に召さないらしい。
 他にも、教師の不倫を暴こうとした先輩委員の記事は、報道委員担当の教諭に揉み消されてしまったものの、最終的に不倫教師は氷帝をやめていった。
 しかし、だからと言ってなぜわざわざ俺が跡部部長を取材せねばならないのか。
 報道委員会長には「女子はミーハーで任せられないし、他の男子だと面白おかしく書かれるだろ」と言われた。だが、おそらく本当は、同じテニス部であるため、簡単に跡部部長にアポイントメントが取れると思われているから頼んだのだろう。
 実際、それなりに簡単に会話が出来る程度には、跡部部長と親しいと言えなくもない。だが、「親しい」という括りにいれられると、主に首筋から背筋にかけて薄っすらと寒さを感じもする。
 跡部部長は、それなりに誰とでも会話するし、完璧すぎるほどに、部長業も生徒会長業もこなしていて、わかり易く『優等生』だ。
 だが問題は、あの強烈な顔面と凶悪な個性。下剋上相手ではあるが親しくなりたいとまでは思わない。
 十三年という短い人生の中だが、一人称が俺様の人間など、俺は跡部部長しか知らない。ただの優等生ではなく優等生〈様〉とでも言うべきレアなジャンルだ。俺の苦手な、派手すぎて我儘すぎる人間だ。
 ただ――



→To Be Continued