M.S.Q

 トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト タララタンッタンッ  ダララララー  タララタンッタンッタンッ  ダラララララ-
 タララ トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト タララ トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト
 タララ たぁーーらぁーーらぁーーらぁーーらぁ〜〜〜
                             (トテンテトテトテ トテンテトテト トテンテトテトテ トテンテトテト)
 タララ たぁーーらぁーーらぁーーらぁーー↑らぁーーらぁーー↑らぁーーらぁーーらぁ〜〜〜〜
                             (タララ トテンテトテトテ トテンテトテト トテンテトテトテ トテンテトテト)
                                                      ダンダンッ
 タララ だんっだんっだんっ   ぴよっぴょぴよっぴょ ぴよっぴょぴよっぴょ
 タララ ターラターラララ・ターララーラ タータタータタタ・タータタータ ターラタータタラ・ターラターラ タータタータタラ・タータターラ/ターラターラララ・ターララーラ タータタータタタ・タータタータ ターラタータタラ・ターラターラ タータタータタラ・タータターラ/ターラターラララ・ターララーラ タータタータタタ・タータタータ ターラタータタラ・ターラターラ タータタータタラ・タータターラ/ターラターラララ・ターララーラ タータタータタタ・タータタータ ターラタータタラ・ターラターラ タータタータタラ・タータターラ  ダンダンッ
 タララ ピッピッピッピコ・ピッピッピッピヨッ ピッピッピピコ・ピッピッピッピヨッ ピッピッピッピコ・ピッピッピッピヨッ ピッピッピピコ・ピッピッピッピヨッ
 タララ ピッピッピッピコ・ピッピッピッピヨッ ピッピッピピコ・ピッピッピッピヨッ ピッピッピッピコ・ピッピッピッピヨッ ピッピッピピコ・ピッピッピッピヨッ
 タララ トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト トトットタットト

「……知らないわ」
 芥川が息を切らすほど真剣に口ずさんだリズムに、は、ほんの少しも聞き覚えがなかった。
「え〜っちゃんクレイジーモーターサイクル知らないの?! 駄目だよ! やっぱロープレでドラクエスリーとエフエフセブンは外せないっしょ!」
 それを聞いたは、フンと鼻を鳴らした。
「ロープレはセガ、ロールプレイングゲームはホビージャパン、RPGはバンダイの登録商標だわ」
「うっわーちゃんマニアック!」

 さて、現状を思い出そう。
 異国に拉致されたを芥川らが助けに来た。芥川のみがを無事に見つけたが、現在、銃を所持した王宮警備隊に追われている。しかし、がほぼ全裸的セクシーカーテン服なので、逃げる前に適当に服を物色しようと言う感じである。
 それなのに。

 この緊張感のなさに、残念ながら突っ込む人材はここには今いなかった。

「じゃあ、次は私からいくわよ。――ズッチャカチャッチャジャカジャカジャッジャッジャーーン・ズッチャカチャッチャジャカジャカジャッジャッジャーーン・ズッチャカチャッチャジャカジャカジャジャジャジャジャーーン・ズッチャカチャッチャジャカジャカジャジャジャジャジャーーン・ジャ−ンジャンジャンジャージャジャーーン・ジャーーーーーンジャンジャンジャーーーンジャーーーン」
「えええぇぇぇぇ〜?! マジマジわっかんねーC!」
「チャイコフスキーの荘厳序曲千八十二年よ。それくらいわからなくてどうするのかしら?」

 忍足、跡部、宍戸の誰かがいれば、誰かは何かを突っ込んでくれたのだろうが、鼻歌を歌いながら森を散策する赤頭巾ちゃん並に、と芥川に緊張感はなかった。緊張感? 何それ美味しいの? 状態である。
 最初こそ、気を張って歩いていた二人だが歩き始めて一分経った頃に、しりとりが始まり、二分後には芥川が蜜柑と言ってしまった。その後、が普通にンから始まる単語を繋げたため、蜜柑→ン・ジャメナ→ナン→ンゴロンゴロ保全地域→菌→ンバケ県までいったが、逆に芥川はンから始まる単語を知らずにここで終わった。
 それから、鼻歌で曲名を当てようゲームになったというわけである。

「チャーチャチャンチャンチャンチャンチャンチャーーーン・チャーチャチャーーチャ チャチャチャ チャンチャン チャーチャチャンチャンチャンチャンチャー・チャチャチャチャーチャチャチャチャンチャンチャンチャン」
「CMで聴いたことがあるわ。ドラゴンクエストの曲よね? ターラーーララララーラララ・ラ・ラ・ラー」
「チャララララララララララ〜↑ チャラララーーーーーラーーーラーーラーーーーー! 俺も曲の名前わっかんないけどねー」
「あら、じゃあ、問題として成り立っていないじゃないの。仕方ないわね」
 などとのほほんとしている二人に「フリーズ!」と怒鳴り声が掛けられた。
 これだけ大騒ぎしていれば、発見されるのも当たり前であり、そもそも、は、どうせ見つかるだろうと思いながら行動していたが、それを予想していなかった芥川は、を守ろうと“俺を倒してからにしろ! ”という感じの立ち位置でと警備隊の間に立ちはだかった。
 王宮警備隊が大げさな銃を構えていた。は瞬時に一人であれば突破できると考えたが、一時的に突破したとて、それは基本的な解決にはなりえない。怯えたように芥川によりそい、物々しい装備の王宮警備隊をまるで月の雫のような涙を浮かべて、捨てられた仔犬よりも哀れに見つめてみせた。
 一瞬ひるんだ警備隊は、けれど、芥川の必死のディフェンスを身長と体重と筋肉と年齢と経験とで力づくに押しのけて、の腕をがしりと掴んだ。芥川の「ちゃん!」という悲痛な声を聞きながら、御陵院・Damrosch=は、とりあえず、XXXXXX国の言葉で、己のほっそりと美しく造形された腕を掴んだ王宮警備隊に向かい

『いやぁあああああああああああああっ! 変態っ! 犯される! 誰か助けてぇえええっ! ママッパパッ助けてぇええええッ!』

 と、叫んだ。
 ちなみに、がこの国でまず最初に覚えた言葉は“変態”、“変質者”、“乱暴される”、“助けて”、“お金”、“返して”、“安くして”、“値段が高い”、“好き”、“イヤ”、“怖い”、“頂戴”、“どっか行け”である。どんな状況を想定していたのかがあっさりとわかるチョイスである。
 宇宙壊滅系美少女が目に涙を溜めて、なめらかな素肌を晒し、もうちょっとでポロリもあるよ! な状況になりつつ、怯えまくった様子で、産まれたての小鹿のように震えながらそんなことを言えば、思わず手を離すのが人間と言うもの。
 しかし、その隙を狙ったとて、まだまだひっくり返したゴキブリホイホイから零れ落ちるゴキブリのような数の王宮警備員がいるのだ。はそこで手に持ったマシンガンで殴るとか、蹴るとかはしなかった。
 そもそも蹴るために足を上げたら、恐ろしいサービスショット十八歳未満閲覧禁止ですなことになりかねない。もしくは、某国の児童ポルノ法にひっかかる。はまだ、中三だから。一応。
 はよろりとよろけ、芥川の腕にすがるように納まると、先日いっき読みしたこの国の辞書の内容を瞬時に脳内検索する。
『服……』
 そして弱々しく震える声で呟いた。生まれたての仔猫よりもなお頼りなげで華奢。うっすらと鳥肌を浮かべた美味しいチーズの原料になりそうなミルク色の肌、そして滑らかな頬を伝う光を弾き増幅させるダイアモンドのごとき涙。
 さしもの王宮警備員も“別に犯罪者ではないのだから、服くらい着せてやろう”という気にもなる。そもそも、第三王子は、王宮内でも評判が宜しくない。そして、はいまだ児童ポルノ法に保護されそうな、普通の中三の絶世の美少女で才色兼備で変人なのだ。
 芥川は目を白黒させつつ、展開についていけないものの、の身体をかばうように「早くお姫様抱っことやらをしなさい」という耳打ちに従ってを抱き上げた。思わず「重ッ」と言ったがは、気にしなかった。
 なぜならば、彼女は芥川より十センチメートルほど身長が高く、筋肉は細く見えても重量があるからだ。さらには女性らしい柔らかい脂肪を、己の意思で身にまとっているので、芥川には少々辛いだろう。跡部あたりは軽く持ち上げそうな気もするが。

 衣装室に案内されたは『恥ずかしいから覗かないでね☆』というのを初々しい生娘の恥じらいという演技でしてのけた。
 世界が絶賛する美少女・御陵院。その内、写真集でも出すだろう。
 が着替えている間は、芥川は人質にとられたが、天真爛漫な芥川は「どうせ殺されるわけないC、ちゃん逃げちゃいなよ」と先にに伝えていた。
 さて、どうすべきかと、各国首脳が訪れたときの正装用のXXXXXX国の民族衣装に着替えながら考える。しかし、むしろ使用人用の衣装室に行きたかった。
 王族用の衣装ルームには、あまりに上品で豪華で“一般人ではないことが丸わかり”の服しかない。
 外部に逃げたときにこの服装では目立ってしまう。さりとて、一応は第三王子の婚約者っぽいのに使用人の服は着せられないのだろう。

 さて、どうやって逃げるか。
 三階程度まで降り、一室に閉じこもり、トンプソンサブマシンガンで窓をあけて、そのまま外に出る――否、駄目だ。広大な敷地内で徒歩で逃げても勝ち目はない。また、運転手をたぶらかして車で逃げたとて、追っ手はつくだろう。
「ああ、でも、とりあえず逃げたいわね」
 この空間で息をするのも嫌だと、は首を振った。
 裸でデブの部屋に放り込まれたときは本当に兄を殺そうかと思ったである。これが日本であれば、兄もデブも警察に突き出せるのだが、第三王子の権力と、某国女王の愛人の権力は計り知れない。
 そんな権力など、ちょっとしたひずみでひっくり返せる、砂上の楼閣ではあるが、には、今はそれにすら対抗できる力がない。
 イライラしてきたは、衣装ルームの窓を大きく大きく窓が外れてもいいと思いながら開け放つと、XXXXXX国の言葉で『おうちに帰してえええええええ!!』と叫んでみた。それから日本語で「全世界を呪ってやる!!」と叫んでみた。
 は少しすっきりした。
 もっとすっきりするために「私以外の人間は総て滅びなさい!」と叫んだ。それから警備隊への牽制と、哀れさの演出の為に『パパ、ママ、おうちに帰りたいの!』とXXXXXX国の言葉で言い、再び「あのデブ熱湯消毒してやるわ!!!」と絶叫した。
 それを五度ほど繰り返して、綺麗に着飾ったは、瞳に透明な雫をためながら『暖かいお水が欲しいです』と従順そうなそぶりで警備隊に申し出た。XXXXXX国での“湯”という単語を咄嗟に思い出せなかったである。

 この女、どこまでも図々しい。

 の叫び声を聞きつけた鳳がまず思ったことは、が喉を痛めるのではないかと言う心配だった。兄がいる為に喧嘩慣れしている宍戸に率先されながら、声の聞こえてきた方に駆ける。運よく、鳳と宍戸はらと同じ階、同じフロアにいた。
 宍戸は、咄嗟に、驚くほどえげつない攻撃をする鳳を抑える意味でも一緒にいた。鳳を後輩としては信じているが、喧嘩になれば暗黙の了解など知らない鳳を敵に回したくはない。
 同調(シンクロ)できるようになるには、もっと鳳をわからねばならない、と宍戸は何故か意欲に燃えていた。宍戸は最近良く意欲に燃えている。
 忍足と向日は、警備隊から逃げるので精一杯だったが、警備隊をなんとか撒くと、汗を引かせるために手近な窓を少し開けて風に身体を拭かせていた。そして、かすかながらの声を耳にした向日が「かなり上だ!」と言いながら走り出したので、忍足は、少々邪魔になった眼鏡を胸のポケットにしまってそれを追いかけた。
 日吉と滝は、女中に誘われてティータイム中だった。あまりの王宮の広さに、諦めつつある二人である。そして、がここに拉致されてからの、まるで深層の令嬢のような振る舞いを聞かされて、とてつもなく苦いコーヒーを飲みたくなっていた。
 樺地は、最初に通された荒れた室内を掃除しながら、の兄であるが笑っているのを、不思議に思う。とりあえず、樺地は丁重に扱われていた。そもそも、樺地も最初から何も飲んでいなかった。ただ、跡部が、を放置するのは宜しくないと思ってることを理解していたのでお目付け役を言われずともやっていたのだった。

 そしてその跡部は、まだ一人で、迷子のようにうろちょろしていた。
参考・引用:この曲の題名を教えて!まとめサイト