日吉先輩の目は、いつも公平だ。 もちろん例外はある。 例えば跡部部長を見る時は尊敬と、敵対心。例えば鳳先輩を見る時は若干の親しみ。 でも、私たち一年を見る時は、とても公平な目だ。レギュラーではない部員を見るときも、同じ。特に興味もなく、悪感情もない、自分には関係のない存在だとでも言うような視線。 たまに「あの人の目つきがムカつく」という人もいるけれど、それは元々の目つきが鋭い所為で、特に横目で見るとにらんでいるように見えるからだと思う。 人事ながら、笑っていればいいのに、とか、思う。 でも、別に日吉先輩は特に意識して冷たい目で見ているわけじゃなく、あの人にとって下剋上対象外な人は電柱とかの無機物と同じようなものなんだと思う。 私は、かなり濃い性格の多いテニス部で一年担当のマネージャーをしていて、一年だけでも六十人以上いるので毎日大変。 でも、準レギュ目指して頑張ってるクラスメイトとかをみると、私もがんばらなきゃって思う。 それに、毎日充実していて楽しい。 本当は、幼稚舎から続けていたテニスをするつもりだったけれど、視力矯正手術をするために病院に行き、そこで私は自分の目がスポーツには耐えられないものだという事を知ってしまった。 確かに、そうとう凹んだけれど、それならば、少しでもテニスを近い場所で見られる場所を、とマネージャーに志願した。榊監督はめずらしく、快くマネージャーとしての入部を許してくれた。他のマネージャー希望の女の子は、なんで私がと厭味を言ってきたりもしたけれど、気にはならなかった。 準レギュにもなれば、女の子にもかなり人気が出てくる。 それは、付加価値みたいなものだから、私はあまり興味ないけれども、他の子達は付き合う人が有名だと、テニスが巧かったりすると自分にも箔が付いたように感じるらしい。 なんとなく、わかるような、でもわからないような気もする。 私は、練習に使ったボールを数えながらカゴに放り、部内試合を眺める。槲和先輩と日吉先輩の試合。 日吉先輩がスリーゲームストゥワンでリードしている。 二年生なのに今夏レギュラーになった日吉先輩はやはり、女の子には多大な人気がある。一年の間ではレギュラー・準レギュラーの中でも日吉先輩には彼女がいないからと、日吉先輩狙いの子もたくさんいる。 本当に彼女がいないかどうかは誰も確かめていないようだけれど――まあ、そんなことを気軽に聞けるような先輩でもないし――、私にも日吉先輩が女の子と付き合うような性格には見えない。 とか考えつつ五十六個目のボールを拾ったとき、観客席で見ていた女の子達から黄色い悲鳴が上がった。 日吉先輩がそちらへ向って軽く手を振ったからだ。(いや、振ったというよりも、犬猫を追い払ったという感じの手の動かし方だった) そんな事をするなんて珍しいと思って、日吉先輩の視線を追うと、一年の女子の一団にぶちあたる。みんな、私に手を振ってくれたのよ、的にはしゃいでいたけれど、私から見たってそれはありえないと感じて、更に遠くを見る。 眼鏡のおかげで矯正視力二.〇の私は、交友棟の二階の窓際にいる女の人……ネクタイの色からすれば二年の先輩を発見。あまりの遠さに即座に否定。結局、日吉先輩が誰に手を振ったのかはわからなかった。 日吉先輩も直ぐに試合に戻って、シックスゲームストゥツーで勝っていた。 私は丁度一〇〇個目のボールを拾って先輩マネージャーに籠を渡す。ドリンクなんかは、この先輩マネージャーの仕事で、手の空いているときには私も習ったりする。 ふりかえると、同じ一年坊主の男の子達は基礎と、ラケットに慣れる練習を繰り返していた。頑張れよ、と思う。 私はもうテニスは出来ないけれど、だから、その分、こいつらが頑張ってくれればいいと思う。 日吉先輩の試合が終わると、忍足先輩が日吉先輩に、宍戸先輩が槲和先輩に、声を掛けていた。 やっぱりレギュラー陣の人気は根強くて、試合でもないのに女の子達は観客席から離れない。 うちのクラスの馬鹿男も、女の子にもてたいからって理由でテニス部に入っていたなと思い出す。動機が不純でも、強ければ、レギュラーにはなれる。 強くなければ、どんな動機でも準レギュラーにすらなれない。 「あー今日も疲れたっ」 もう、生徒も部員もほとんど帰ってしまった頃、私は先輩マネと一緒に掃除を終えて着替えを終えて、昇降口で大きく伸びをした。先輩マネは笑いながらまた明日と言って、私もそれに笑顔を返す。 実は部員よりもマネージャーの方が帰宅時間が遅いことがよくある。無茶な練習をする部員よりは、早く帰るけれど、それでも部員が練習を終えた後にやる仕事もあるので必然的に遅くなる。あまりに帰りの遅い部員には、その仕事を押し付けてもいいという事になっているけれど、今日、残ってたのは跡部部長だけだ。 今日の仕事が終わった区切りをつけるために、大きく息を吐く。それから、跡部部長はまだいるのだろうかと、ちらりとレギュ用の部室を振り返ろうとして日吉先輩を、見つけた。 日吉先輩って、そういう顔もできるんだ。 あまりの意外さに自分の目が丸くなっていくのがわかった。 明らかに私たちを見るときと違う。 私たちを見るときの眼が公平なら、日吉先輩は今、不公平な目をしていた。 ド……っと悲しくなってきた。 それでやっと、私が日吉先輩を目で追っていた意味がわかった。 なんだ、私、日吉先輩のことが好きだったのか。 目を離そうと思っても、動けなかった。 日吉先輩の「香奈って本当に馬鹿だよな……」と言う声が聞こえて、香奈先輩は「若に比べれば誰だって馬鹿だよ。まどかちゃんとか以外」と私にもわかりやすい拗ね方をしていた。 香奈という名前とまどかと言う名前は聞いたことがある。 有田まどか先輩は二学年首位で、いわゆる才女というやつだ。鳳先輩と付き合っている、一年にもファンの多いとても綺麗な人で、クラスの男子の半分くらいは有田先輩の噂を聞いて顔を見に行ったことがあるらしい。背が高くて、どちらかと言えば芸能人と言うよりもモデル系の綺麗さだ。一年の女子には何から何まで有田先輩の真似をする人がいるくらい。僻む気にもなれないほどの人。 小曾根香奈先輩は、可愛い先輩談義にたまに登場する。とても可愛いとか、すごく綺麗という訳ではないけれど、普通に素直に「ああ可愛いな」って思える人だ。ただ小曾根先輩がそんな会話にたまに上がるのは有田先輩とよく一緒にいるから、らしいけれど。たしかに小曾根先輩が一人で歩いていてもそこまで一年坊主共の会話には上がらないだろう。 小曾根先輩と日吉先輩は手を繋いで歩いていて(意外すぎて驚きすぎる)多分、こんなに遅くなるまで、日吉先輩のことを待っていたんだなと思うと、何だか悔しい。 校門を曲がった二人が見えなくなっても、私は立ち尽くしていた。 恋心を自覚した瞬間が失恋の瞬間だなんて。 ああ、神様はなんて意地悪。 ◇◆◇ 沢山のラウンドテーブルが並び、ざわつく食堂に着くと、小曾根先輩が有田先輩と一つのベーコンとアボカドのホットサンドを摘まんで話していた。 私は氷帝の食堂自慢のシェフが片手間にメニューに付け足したとでも言いたげなカツ丼という男らしさ満点のメニューを選んでいたので、それだけで哀しくなる。いや、別にカツ丼がホットサンドに劣ると思っているわけじゃないけれど――イメージ的には焼酎とシャンパンみたいな、イメージ。私の中では。 なので、なるべくそちらを見ないようにして私は席を探す。 丁度、小曾根先輩の周りのテーブルは鼻の下を伸ばした男子が――いや、実際は伸ばしていないけれど ――有田先輩を見ていて空いてない。 少しほっとして席を探すけれどいかんせん昼食時。出遅れた私はすぐには座れそうも無い。 教室で食べようかな、なんて思っていると、 「そこの一年生の子」 可愛いと形容するのがピッタリな声が私の耳に届く程度にささやかに食堂に響く。 私の事ではあるまいと思いつつ、声の聞こえた方を向くと、小曾根先輩がニコニコしながら手を小さく上げていた。そのポーズが可愛らしくて、なんで私とはこんなに違うのだろうと少しばかり妬ましくなった。 声をかけたのは、多分、私にではない。と、思うのだけれど、 「うん、とね、私たち、もう行くから座りなよ」 振り返った私に向かってふわっとした微笑みでそう告げると、有田先輩が立ち上って、それに続いてパステルグリーンにピンクのラインが入ったホットサンドのペーパーボックスを手にして歩き出した有田先輩が、男心を蕩かしそうな笑顔で私に微笑みかける。どういう意味なんだろうか。 その後を追うように小曾根先輩が自分たちの座っていた席を指差して私に屈託なく笑いかけた。 「待って、まどかちゃん!」 「香奈が歩くの遅いから」 「足の長さが違うんだよ……」 早速、有田先輩と小曾根先輩の座っていたテーブルに私は腰を落ち着けてカツ丼を食べ始める。一つ余った背の高いラウンドテーブル用のチェアは足りなかった子達が持っていった。いつもなら、友達がいるのに、今は一人でカツ丼をかきこんでいるせいで余計に色々虚しい。 さっきの有田先輩と小曾根先輩の会話で思い出した事がある。 日吉先輩、昨日は歩くのがとても遅かった。 小曾根先輩に歩調を合わせていたんだ、と思うと、急に涙が零れそうになって、私は一気にカツ丼を平らげた。 そういえば、どうして、日吉先輩は小曾根先輩を選んだのだろう……。それとも、日吉先輩が小曾根先輩に選ばれたのだろうか。 私があと一年早く生まれていれば、何かが変わっていたのだろうか。小曾根先輩と、私の立場が、もしかしたら、逆になっていたのだろうか。 日吉先輩の目はいつも公平。 私を見る目も、雑草を見る目も、教師を見る目も、鳩を見る目も、後輩を見る目も、電灯を見る目も、みんな同じ視線。 でも、小曾根先輩を見る目は不公平。小曾根先輩を見る目は、不平等。 昼食を終えた私は、氷帝の中でも木の生えた、人の来ない場所(中庭とはちょっと違う。テニスコートのすぐそばの微妙な場所)でぬくぬくと日向ぼっこ。仲のいい友達はお昼に委員会があるとかで、一人寂しく。休み時間に教室で仲の良くない子たちとお世辞の言い合いや悪口の同調をするのはかなり面倒なのだ。 「ホント、馬鹿」 「やりたかったんだもん」 「ホント、馬鹿」 「いいじゃん。ベンチは我慢してあげたでしょ」 ああ、何か嫌な予感がする。 見ちゃダメだ私。 声からして結構遠くにいるんだろうけど、振り向いたら絶対ショックだ。と、思うのに、結局好奇心の誘惑には勝てずに声のした方を見てしまう。好奇心、猫をも殺す。きっと、私も殺せる。 顔を向けた先には私の予想通り日吉先輩と小曾根先輩がいた。 驚いたのは、正座した小曾根先輩の膝に日吉先輩が頭を乗せていることだ。 意外すぎて、悲しむより先に驚いてしまった。 芝生の上に寝転がって、小曾根先輩の太腿に頭を乗せている日吉先輩……私の中でありえないものトップスリーには入る。 日吉先輩の表情には、どこか不本意そうな感じが漂っていた。そもそも、さっき聞こえた声も不機嫌そうなものだった。 「テストで七十点以上取ったんだから、ね。偏差値テストではダメだったけど期末考査は全部七十点以上だったでしょ?」 「……わかってる。だから大人しくしてやってるんだろうが」 「いいこいいこー」 「うるさい」 不機嫌そうな日吉先輩の頭を撫でる小曾根先輩。会話の内容はギリギリ聞こえるけれど、その意味は、私にはよくわからない。 「若はサラサラさんだねー」と、小曾根先輩が機嫌良さそうに笑っているのがココからでも解った。よく見えないけれど、口調からして、日吉先輩の眉間には皺がよっているんだろう。 急に小曾根先輩が屈んだかと思うと、日吉先輩の前髪を手で上げて、露になった額に唇を落とした。 あまりの展開に驚いていると、日吉先輩が小曾根先輩の髪を引っ張って、引っ張られた小曾根先輩は更に屈んで……私は、生キスシーンを生れて初めて見ました。 しかも、それは好きな人のでした。 神様って理不尽。 ああ、なんて恥ずかしい人たちだろう。 赤くなってしまった頬を手の甲で隠しながら、二人に気付かれないようにそっとその場を後にした。 心臓がドキドキする。小曾根先輩が私だったら、なんて思ってしまった自分が気持ち悪くて苛々する。 ◇◆◇ 「あ、お昼の子……」 だから、何で? 神様……私がそんなに嫌いですか。 交友棟で部員達(と言っても一年の分だけだけど)の飲み物の買出しに出ていたら、思いっきりころんで廊下にペットボトルをばら撒いてしまった。 普段は粉のドリンクを作っているのだけれど、今日は在庫管理を失敗して急遽買いだしになってしまった上、ころぶなんて今日はあまりについてない。 普通の通路に段差なんて作るな手抜き工事! と、憤慨してペットボトルを拾っていたら小曾根先輩に会いました。 背の低い小曾根先輩を思わず、見下ろしたと同時に小曾根先輩の桜桃色の唇が目に入って顔が赤くなるのを自覚した。 日吉先輩は、この唇にキスするんだ…… 私が何か言おうとする前に小曾根先輩が、廊下いっぱいにちらばったペットボトルを拾い始めたので「ありがとうございます」と、一応お礼を言って黙々と拾う。 全て拾い終えたところで、破けた袋で運べるわけも無いことに気づいた。途方にくれていると、小曾根先輩は笑って私に言った。 「一緒に持って行こう? 袋、破れちゃったんだよね?」 「え……あの、でも……申し訳ないですし」 「私、人を待ってて暇なんだ。大丈夫だから」 にっこり笑って言われてしまった。私も一人で袋もなく運べるわけも無かったのでその言葉に甘えてしまう。それが、なんだか悔しい。小曾根先輩はそんなこと思われているなんて、きっと思っていないだろうけど。 歩き始めると、小曾根先輩は本当に小さいな、と思った。 小柄で、華奢で、優しくて、可愛い。 神様は不公平だ。結局、恋愛には容姿が重要なのだろうか。可愛ければ日吉先輩に好かれるのだろうか。可愛ければ、私の目は、スポーツを続けることが出来たのだろうか。所詮顔なのだろうか。見た目なのだろうか。 次第に苛々が止まらなくなって、やっぱり一人で持って行きます、と言おうとしたら、私の胸のうちなんか知らない小曾根先輩は両腕にペットボトルを抱き締めて、私を見て笑う。一瞬、善意で手伝ってくれている小曾根先輩に対して、こんな感情を持っている自分に気づくと同時に言葉に詰まって、ああ、言い出すタイミングを逃した。 無言が辛くなったタイミングを見計らって、小曾根先輩が時々話しかけてくることは、頑張ってるんだね、とか、スレンダーで羨ましい、とか普通なら、お世辞としか捕らえようのない言葉ばかりだったけれど、あまりに羨ましそうに言っているので、苛々しているのも忘れて、なんだか照れてしまった。 「私のほうこそ、小曾根先輩が羨ましいですよ」 「なんで?」 本心が漏れてしまって、“それは日吉先輩の彼女だからです”と言おうとした唇を力づくで動かす。 「小さいし、可愛いからです」 それを聞いた小曾根先輩が、少し黙ってから、明るい口調で言った。 「……幼稚舎の頃ね。修学旅行で遊園地に行ったんだけど、私だけ身長低くてジェットコースターとか乗れないし、グループの子が乗ってる間は一人でベンチに座ってて、すごい哀しかったんだー」 明るく言うので私も思わず、笑うという一番適当な反応をしてしまったけれど、それは確かに切ない。小曾根先輩のことなのに想像しただけで可哀想になってしまうほどだ どうしよう、たったこれだけのことで、なんだか、小曾根先輩が生きている感じがしはじめた。今まで、私の中で、可愛くて日吉先輩の彼女という記号でしか、なかったのに。 「今だって、吊り合わないし……キミくらいの身長の方が――って、あれ、何で私の名前知ってるの?」 吊り合わない、の言葉が日吉先輩にかかっていることが今の私にはわかった。確かに、日吉先輩と小曾根先輩は、意外な組み合わせと言うイメージがあった。見た目だけだったそれは、今会話して、より強くなっている。 「小曾根先輩って結構一年の中では有名ですよ。可愛いって……そういえば日吉先輩と付き合ってるんですよね?」 白々しい私の言葉。でも、後半部分を聞いた小曾根先輩は頬をまるでりんごのように赤くして、『なんで? 知ってるの?』と視線で訴えてきた。 仕草がいちいち可愛い人だな、と思う。狙ってやっているのかはわからないけれど、たしかに男子なら人によってはクリティカルヒットしそうだ。一般的に、女子には嫌われそうな人だと思う。 そういえば小曾根先輩と仲のいい有田先輩も、女子の中では人気が真っ二つに割れることを思い出した。可愛い、というのは、それだけで敵を作るのかもしれない。 私だって、心情的には、小曾根先輩の敵なのだろうし。 「ちょっと、風の噂で……知りました」 ぼかして言っても、小曾根先輩はそれ以上は聞いてこなかった。 「どうしよう……一年生まで知ってるんだ……二年だけかと思ってた……!」 天下の氷帝学園中等部、男子テニス部、正レギュラー(たしか関東大会で正になってたはず。補欠ではあるけれど)の彼女なら、反対に、皆知ってて当然だと思う。 今更ながら、二・三年生で日吉先輩の彼女狙いの人が少ないことに納得した。知らなかったのは一年だけ、か――私を含めて。 小曾根先輩は、いま、とても可愛い顔をしている。それはつくりの問題ではなくて、きっと日吉先輩の事を考えているからだろう。 お昼のこともあるけど、たぶん、私では、日吉先輩をあんなふうな目で見させられないだろうなと唐突に思った。 不機嫌な感じの日吉先輩は、でも、部活とは全く違う雰囲気だった。それはきっと小曾根先輩がそばにいたからなんだろう。いまさらで当たり前のことに気づく。 言葉自体も口調も声音も乱暴なのに、それでもあんなに、優しい印象になるほど、日吉先輩は小曾根先輩が、好きなのか……。 ああ、日吉先輩と小曾根先輩は、私の手の届かないところにいるんだ、と思った。私がどんなに努力しても、きっと日吉先輩を振り向かせることは出来ないだろうと確信できてしまう、あの不公平な視線。私が可愛かろうがどうだろうが、きっと日吉先輩は小曾根先輩を選ぶんだろう。 悔しいけれど、そんな私が、略奪愛なんて、できるわけがない。 自分を無理矢理に納得させるために、自分に言い聞かせるために、意を決して放った言葉。 「私、お似合いだと思いますよ小曾根先輩と日吉先輩」 そう言った途端、とても嬉しそうに小曾根先輩が笑ってくれた。 ただ、踏ん切りをつけるためだけのネガティヴな気持ちから発した言葉だったのに、照れならがも心底嬉しそうな小曾根先輩の笑顔に、女の私ですらちょっと――なんと言うか、きゅんとしてしまった。 胸きゅん、てこういうことを言うんだ…… いつか、私にも、日吉先輩と小曾根先輩のような関係になれる相手が、見つかりますように。 そう、切に願う。 |