「あなたが協力したんでしょう?」 「ちゃんと言いなさい!」 「あなたたちの手口なんてわかってるんだから!」 「学校の名前と住所は?!」 「警察はもう呼びましたからね!」 や、やなぎーやなぎーれんじーれんじー! ちゃんとダイエットするからたすけえええええええええええてえええええええええ!!!!! レッツダイエット☆ Q.でぶのどこがわるいんですか。 蓮二が防犯カメラを見ながら淡々と 「星野の視線は常に一定です。後ろの人物や周りを気にするそぶりもありません」 とか、色々言ってくれて窃盗容疑はなんとか回避されたけども。 「デブってだけで万引きに利用されるんだねー……」 あんまりにあんまりな今回の事件に、あたしの肩は地面につきそうなほどがっくりと落ちていた。 「壁に使いやすいのは事実だろう」 柳は溜息をつきつつ、肩にかかってる鞄の紐を握りなおす。 【詳細説明】 蓮二から逃げてこっそりスーパーでお菓子を買おうとした星野さん。 ↓ 一所懸命選んでいる間に、美奈ちゃんのデブ身体を利用して、防犯カメラの死角で万引きする高校生っぽいの。 ↓ 高校生が退店しようとしたところで万引きSPに捕まる。 ↓ 共犯として捕まる美奈ちゃん。 ↓ 高校生が「このデブに脅されて仕方なく!」とか言い出した。 ↓ あたし、親を呼ぶように言われ、学校名を教えるように言われ、蓮二に泣きながら電話する。 ↓ 蓮二無双 【説明終了】 部活中なのに即行で迎えに来てくれた柳マジ感謝。 三日くらいはメスブタって呼ばれても笑顔で「イエッサー!」って言える。 と、思いつつも、一つ腑に落ちない。 腑に落ちないというか。 理解できないアンインストール。 あのさ、 柳くんさ、 蓮二くんさ、 なんで、幸村君連れてきちゃいますかね? 私には柳の思考がマジ意味不明です。 なんだ! なんなんだ! デブを利用されて万引き犯に仕立て上げられて凹んでる私を笑いたいのか! ぶひぶひ泣いてる私を幸村君に晒しに来させたのか!! ああそうか!!! 笑えばいいよ!! デブだと万引き犯にされるって!! 笑えばいいさ!!! ぐっへっへっへって笑えばいいさ!! とか心の中で思っても、何も言えないわけです、はい。だって幸村君いるし。 「ゆ、幸村、くん?」 「うん?」 幸村君は完全無欠の美しさすら感じさせる笑顔で私を見るわけです。 今日も黒髪はキラキラキューティクル。柔和な瞳に長い睫毛のリアル王子様。ああ、こんなに間近に見られるだけで柳の友達で良かった! って少し前なら思ってた。 「ぶ、部活中、ですよね?」 エヘヘヘ、と揉み手しながら幸村君の顔を窺うと「そうだね」と一ミリも崩れない笑顔で答えてくれた。ナニコレナニコレナニコレ! その笑顔の意味はなんなんですか! 初めて好きな人の笑顔を怖いと感じた星野美奈中学三年生! (やややややああああああなあああああぎいいいいいいいいいいいい!! なんんっなんでっゆきむらくんっ ゆきむらくんっ おまえゆきむらくんんんんんんん!!!!) 蓮二の襟首を引っ掴もうとしたらサラリと優雅な動作で弾かれた。くっそ。 (やなぎやなぎなんでゆきむらくんっ!!) 小声で柳に詰め寄っているつもりが、ばっちり幸村君にも聞こえていたらしい。 「ああ、気にしないで。柳が部活を早退するって言うから、何か大変なことなんだろうと思って、部員たちがそわそわして練習にならなかったからみんなで来たんだ」 みんな 皆 ミンナ MINNA とりあえず私は無意識のうちに丸井と切原にタックルして質量によって二人をブッ飛ばして、そのままダッシュで道路脇に植わっているツツジに突っ込んで頭隠して……デブすぎて頭しか隠れネェー! 生首の反対ヴァージョン!! デブでこんなに悲しい思いをしたのは初めてでした。 ◆◇◆ 「わぁーおねえちゃんのお友達ってイケメンさんが多いんですねぇ」 妹の美穂が手作り菓子でレギュラーメンバーを迎えている午後四時。 丸井が食べている切原も食べている。柳生さんも食べている。仁王も食べている。幸村君は紅茶を飲んでいる。柳は仕出しを手伝っている。黒卵は椅子が足りないので床にクッションしいて座ってる。黒卵らしくて郷愁を誘う。部屋の隅で真田に説教されているのは正座のあたし。 私だって太りたくて太ってるんじゃないもん☆って言ったら 「太りたくないのならその生活習慣を改めろ!! それでは太りたいといっているようなものだ!!」 と真田の叱ッティングタイムが始まって四〇分。おなかすいた。マジで。 美穂は仁王や幸村君の、ちょっと美形っぽい顔が好きなようで、黒卵や切原や柳生さんやデブン太さんには普通の友人に向けるような笑顔で、幸村君と仁王にはちょっと照れた笑顔を向けている。 いいなぁっていうか幸村君をそんな目で見るとか妹でも許さないよ? 一応近所自慢の美少女でも許さないよ? 許さないよ? 「星野! 話を聞いているのか!」 真田が怒鳴った瞬間、妹がビクッとした。おぉう、さすがにこの声は驚くよな、妹よ。女の子には気を使え真田ー! と心の中で美少女な妹の怯え顔にエールを送っていたら。 それを見た幸村君が「真田、美穂ちゃんだって“星野”なんだから」と、美穂を気遣う。 なんだろう、なんか、なんか、これ、悲しいかもしれない。 私は怒られてもいいって幸村君は思ってるんだよね。 いや、確かに私の体系は不健康だけども、なんだろう、これ、すごい悲しいな……。 泣きそうになっている私に、真田は気づかないで、怯えた美少女マイシスター・美穂に謝る。 それから再び説教開始されそうになった時、蓮二が「星野、少し話せないか」と聞いてきた。真田はそれで、叱ろうとしてた口をぐっと閉じる。 「あー、うん、あたしの部屋でいい?」 「ああ」 どすっどすっと足音を立てながら部屋に入ると、柳が部屋のドアを閉めてくれた。 「星野、俺は別にお前が痩せた方がいいとは思っていない」 「体に悪いって言ってたの誰ですか」 どっふぅーっとベッドにダイブする。スカート捲れあがってびろーん。きゃーいやーパンチラー! 、な場面でも柳は微動だにしない。私の机の椅子を引いて座った。柳、マジ足長い。足組むと長すぎて怖い。 「星野が思っているような理由で、痩せろと言ったことは一度もない」 あたしが思っているような理由ってなんだよ。 とか、思ったけど、さっきとは違う意味で泣きそうだった。 「どーせさー、あたしはデブだし。顔のつくりからしてもさ、痩せたって美穂みたいに可愛くはならないし、努力してもブスなわけじゃん? なんか最近すごい空しい」 体重は五キロ減った。幸せだったスリーセブンは、今や七十二.七キログラムだ。スリーセブンじゃなくなったから、私はこんなに凹むようなことに巻き込まれているのだろうか。 「確かに、星野は痩せても妹のようにはならないだろう。だが、なぜ、妹のようにならなければいけないんだ?」 「だって、可愛いじゃん」 「星野は可愛くなるために痩せようとしてたのか?」 「柳が痩せろって言うからじゃん!! 別にあたしは痩せたくないし!!」 起き上がって柳にクッションを投げつけようとしたら、柳はなんか……なんかすごい避け方したぞこの人…。マトリックスっていうか、なんだ今の動き。 「幸村が好きなんだろう」 マトリックスしても真面目に会話する柳が少し滑稽だ。 「好きだよ! でもさ! でもさぁ……」 ベッドに顔を押し付けてぶひぶひ言うあたしはたぶん醜い。 痩せないし、可愛くないし、頭だって悪いし、今までは見ないようにしてたのか。太ってるのとか全然気にしてなかったはずなのに。 でも、太ってるから醜いんじゃないと思う。太ってるって、ただの体型の話じゃん。そんなのがあたしのことをすべて決めたりするはずない。 ブルーハーツだって育った所や皮膚や目の色で一体この僕の何がわかるんだ死ね! って言ってたし。(筆者注:言ってません) だから、今醜くてつらいのはあたしの心なんだ。 「俺はお前に頑張れとは言わない。ただ、負けるな」 何にだよ! わかってるよあたしにだよ!! あたしの、この気持ちに負けるなって、柳は言ってるんだよ! わかるよバカ!! なんかよくわかんないけど悔しい。 幸村君にとってあたしが眼中に入っていないことがすっごくすっごく悔しい。 今日会ったばっかりの妹は心配されるのに、あたしは。あたしは。 「やせる……」 初めて自分の意志で痩せようって思った。 痩せたいわけじゃないけど、区切りをつけたい。 「協力は惜しまない」 蓮二って実はいい友達だったんだなって思った。 今日から、本気で痩せてやる。 ◆◇◆ 「じゃあ、また来るね、美穂ちゃん」 幸村君が美穂の頭撫でてるんだけど!?! 何これどういうこと!?! |