hallow trickの冬湖さんとtwitterでバーッてガーッた滝夢SS

暗い中で本を読んでいた訳でもないのに、私の視力は病気じゃない範囲でぐんぐん落ちていく。仕方なく眼鏡を買った。コンタクトはまだ少し怖かった。授業中に初めて眼鏡をかけたその日、たまたま振り向いた滝君と目があった。

突然ばちりとぶつかった視線に驚いたのか、滝君は僅かに目を丸くしたように見えた。一刹那後には何事もなかったようにいつもの微笑むような口元で滝君は視線を前に戻したけれど、目を細めるのが癖になっていたから、睨んでいたと思われたのではないかと気が気ではなくなった。

そんなハプニングもありつつ、眼鏡にも慣れたある日。また、滝君と目があった。滝君の視線はそのままフッと上がって窓の外に置かれた。ドキドキして損したなと思いながら、つられて窓の外を眺める。一週間に一度くらいの割合で、滝君と私の目が合うことに気付いた。

目が合ったと思った瞬間には滝君の視線はいつも窓の外に向けられる。窓際に鳥が巣でも築いているのかと思ったけれど、そんな様子もない。花壇や樹木は遥か階下。滝君の視線の先が気になって窓の外を眺める機会が増えたある日、担任が何の前触れもなしに席替えの決行を言い出した。

私は廊下側前方の席になった。遅刻をしても座り易そうなくらいで、それ以外利点はなかった。なんの因果か、元いた席は、滝君の席になった。私と言う遮蔽物が無くなって、滝君も存分に空を見れるようになっただろう。地理教師の催眠音波を聞きながら彼につられてよく見上げた空を振り返る。

何の気なしに見上げた窓外の青空は予想通りだったのに、どきり、と大きく心臓が跳ねた。視線の通り道にあるのは、綺麗に切りそろえられた後ろ髪でも微笑むような横顔でもなかった。教師は相変わらず催眠音波を紡いでいたけれど、眠気は微塵も残らず吹き飛んだ。

ただ真っ直ぐな滝君の瞳が私を見ていた。教師の声が響いているはずなのに、一瞬なんの音も聞こえなくなった。目があった。それだけではなくて私の視界も開けた。ああ、そういうことなのか。気付いてしまうとそのままではいられなくなって、すぐ視線を黒板へ戻した。

けれど、集中力は教師の音波でも板上の暗号でもなく、全部が斜め後ろに注がれてしまって、必死に追えども黒板に連ねられた文字なんてひとつも読めやしない。なのに、もう一度振り返る勇気と心の準備がなくて、私はそっと眼鏡を机の上に置いた。

落ち着かないまま授業をやり過ごし、ホームルーム後は少し慌てながら帰りの準備をする。なんだか滝君と同じ空間にいるのが居た堪れなかった。立ち上がった時、机に鞄をぶつけてしまい、しっかり締まっていなかった鞄の金具が開いてしまった。ばらばらと中身が零れ落ちる。

「大丈夫?」身を屈めて落ちたノートに手を伸ばすのと同時に振った声に、私は思わず身を引いた。ゆっくりと視線を上げると、今はまだ出会いたくなかった双眸が、真っ直ぐ私を見ていた。そして滝君は拾い上げた地理のノートを一瞥して、噛みしめるような速度で「あの、」と切り出した。

「よく目が合うよね」予想していた言葉とは違ったけれど、私の心臓を揺さぶるには十分な言葉だった。「合うね…」「…これからも目が合うと思う?」こういう、ずるい訊き方をする人なんだなと初めて知った。「たぶん」そう答えてちらりと滝君を見ると、彼は優しく微笑んだ。