●ジャッカル桑原 肉まん 11/17 2:22-2:33(+誤字チェックetcで2:40) 1046字
冬休みだってのに、テニス部の練習は当たり前のように空気のようにデンとスケジュール内に君臨していて、テニス自体は好きだけれど、どうもこの季節は頭が寒くて風邪を引かないように気をつけないといけないので、できれば朝早くもしくは夜遅くは勘弁して欲しかった。今日だってもう十九時だ。十七時ごろからグッと暗くなる季節に、十九時となれば闇夜とかそんな表現で現したくなるほどだ。
チャリの後ろに乗っている丸井も、赤い仔トトロがいたらこんな感じなんじゃないかというほど着膨れているし、最初のランニング中は、体が温まるまで、マフラーをして走っていた。俺も手袋してたけどな。
「重ぇ……」
昔ながらの住宅が階段のように建っている、馬鹿みたいな上り坂は、丸井を乗せていると結構キツい。
「おう、頑張れ」
丸井は、赤也に言われるとキレるくせに、俺に重いといわれても全然気にしない。別にいいけどよ。立ち上がってペダルを踏み込むと同時に丸井のかぶっていたニット帽をかぶせられた。一瞬ビビったが、風が冷たかったんで、それはそのままありがたくかぶることにした。
「ストップ! ジャッカル!」
「イヌみたいに言うな!」
坂を登りきったとこで、急に耳を引っ張られて急停止しながら怒鳴った瞬間、丸井は体重に見合わない動きで道路に下りて「ちょっとコンビニ寄るわ」とだけ言って店内に消えていってしまった。
こんな、ワガママでマイペースな態度にも、もう慣れちまった自分が悲しい。ダブルスで組むなら絶対に丸井だけどな。
チャリをコンビニ前に置いて、丸井が小銭をそのままジャージのポケットにつっこみながら店内から出てきた。夜のコンビニは、地上に落ちた星みたいに明るすぎて、まず電気代の事が気になっちまう自分にガックリする。
「ジャッカル」
軽く投げられた白いものを片手でキャッチすると、中華まんだった。驚く事にこの一投擲ですでに表面が冷たくなり始めていた。
「指いてーだろぃ」
「サンキュ」
確かに、手袋を忘れたせいで、指は冷たいを通り越して痛かった。
中華まんが冷える前に「いただくぜ」と食べ始めると、肉まんだった。隣の丸井を見ると、やっぱり肉まんだった。丸井は俺の視線を受けて「んぁ」口の中のものを飲み込んで「ジャッカルのは肉まんだけど、俺のは肉まんライトだぜ」だと。どうでもよくて、笑った。
「そうかよ」
「来年もシクヨロ。明日はジャッカルが奢れよ」
「ああ」
俺は結構、丸井が好きらしい。
会社帰りのOLが俺たちをみて遠回りしながらそうっとコンビニに入るのを見て、笑っちまった。
__________
書いた感想:日常の小さな幸せのイメージです。ジャコはブン太呼びだったか丸井呼びだったか……脳内でアニメジャコの声でセリフを言わせながら書いていました。うーん、ジャコの頭は寒いと思います。そして肉まんライトはサークルKの商品です。ニット某を被ったジャコはカワイイと思います。
(アニメジャコの声かっこよすぎるです)
●観月はじめ 大晦日 11/17 19:42-20:04 1268字
まったく……、口の中で溜息をかみ殺して観月は板張りの廊下を歩く。
つい先ほどまで、家族に囲まれ、東京はどうだだの、テニスはどうだだの、高校は戻ってくるのかだの、農業大学に行くといいだの、農家にはなるなだの、体は壊していないかだの、これを食えだの、あれを食えだの、嫁を早く貰えだの、祖父母に捕まっていた観月は、うんざりとした様子で自室へ向かって歩いていた。
そもそも、父の「農家なんてやめておけ」という主張と、祖母の「農家を継げ」という願望は、帰省するたびに言われており、そこから父と祖母の喧嘩に発展することも少なくないので、観月としてはいい大人なのだからいい加減にして欲しいという思いが強かった。特に祖母は勝手に見合い写真などを持ってきたりもした。
観月としては、別段農家を継ぎたいわけでも継ぎたくないわけでもなく、ただ、現在は一家総出でやっている作業を時折手伝っているだけだけれど。農家になろうだの、ロハスなエコライフだの、田舎に住もうだのの文言を見るたびに、観月はあまりいい気はしない。都会暮らしの人間が、田舎暮らしに憧れてやってきたはいいものの、理想と現実のギャップに負けて、また都会へ戻る姿をよく見ているからだった。そして、観月はどちらかと言えば都会で暮らしたいと願っている。情報の密集地帯は、観月の知識欲を満たすのにとても良い。
それでも寮には残らず、一年の頃から盆と正月は必ず実家に戻っていた。
部屋についた観月は、扉の隙間からこぼれ出る光に気づくと、うんざりと眉を寄せた。けれど、そのままドアを押し開ける。
予想通りに室内には二人の姉がいて、予想通りに観月の買ってきた土産物をあさっていた。送料がかかるからと原宿のアパレルショップだの青山のバス用品専門店だの代官山の雑貨屋だのを指定して、観月の口座に入金までしてきた二人は、観月と比べてもアクの強い性格をしていた。
観月は一度も姉に勝てたことはない。
「そっちの紙袋が大姉で、こっちの布袋が小姉のですよ」
どれがどっちのだと口々に聞いてくる姉二人に、観月は辟易しながらもそれを渡してやった。
騒がしい家族と共にいると、観月は少々心細さにも似た、居心地の悪さを感じる。
やっと落ち着いたと、ベッドサイドのランプを点灯して、読みかけの小説と携帯電話とを枕元に置くと、携帯のランプがチカチカと光っていることに気づいた。
内容は、柳沢と木更津が人ごみにもまれている自分達を撮った写真、そして何故か六角中の生徒も交えた写真、おみくじの内容、そしてそれを結んでいる様子までつぶさに。文章自体は一文のそっけないものだったけれど、送り先を見ると、柳沢は、テニス部のメンバー全員にそれを送りつけたようだった。
まったく迷惑なことだと思いながら携帯電話を折り畳もうとした瞬間、電話がかかってくる。ディスプレイにはメールの差出人の名前がハッキリと出ていて、観月は溜息をつきながら、その電話に出てやった。
あけましておめでとうだーね、とあけましておめでとうございます、がピッタリ重なって、観月は噴出しそうになるのをこらえた。
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書いた感想:観月は大好きなのに上手く書けないキャラの一人です。上手くっていうのはあれですね、自分の理想の観月に書けないと。まあ、厳密に言うと日吉も甘すぎて理想とは違うんですが(笑)そして全然10分で終わってないorz
コメント:こんな我が侭な企画に付き合ってくださってありがとうございます。そもそも、よそ様のサイトで飾っていただけるクオリティなのかどうかは不明なので謝らないで下さい(´・ω・`) 実際、放置プレイで寂しくなったら企画をやっているので(最後のメルフォ稼動は実はリアル知人からでしたorz)、そうやって利用していただけるとすごく幸せです。 マイペースにがんばりますので、また遊びに来てやってくださいー。
●観月はじめ 図書館 11/17 20:30-20:49(全部入れて) 1061字
超回復についての説明の載っている本を見つけ出し、観月は大き目のトートバッグの中から、さらにキルティングの大型のポーチを取り出し、その中身のポータブルパソコンを区分けされたデスク上に置いた。
文面をカナ打ちで打ち込む。日本語の文章であれば、圧倒的にカナ打ちが便利だ。単純にタイプする量が半分に減る上、誤変換をしにくく、脳内でローマ字を思い浮かべる必要もない。速度と正確さの為だけに、観月はそれを覚えていた。
部活にどうやってこの情報を活かそうか。超回復を待って練習をサボらせるのは良くないが、無理なトレーニングで怪我をされて使い物にならなくなっても困る。少なくとも、観月の在学中には、それは困る。けれど観月は、その後のことは微塵も心配していなかった。
人身を把握し、操り、そして育てる。まるでリアルなロールプレイングゲームのようだ。
必要な情報をパソコンに入力し終えると、本を戻すために席を立った。道すがら、幼児用に区分けされた、玩具の置いてある絵本のコーナーに視線を向ける。そこは、今はクリスマス模様のジェムジェリーやら、くたびれたクリスマスツリーやらで飾り付けられている。
そこに、おそらく弟か妹であろう幼児に本を読んでいる少女がいた。どうしてそう判断したのかと言えば、単純に年齢差で親子ではあるまいと思い、目元の感じがそっくりだったためにどう見ても血縁だからだ。
少女が身体の内に抱きこんだ弟か妹かは、彼女が手にした本の先を捲っては、また元に戻し、好き勝手に手を動かしていた。
観月は、本を元に戻し、同じ棚の役に立ちそうな文献を背表紙で探していく。ネットで調べておいた文献はほぼすべて見つけ出してデータの入力を終えていた。しばらく探してから部活に応用できそうな本を見つけ、それを手に、図書館内に据えられているデスクへと足を向ける途中、先程と同じように移動圏内にある幼児ルームへ目を向けると、両膝と片手を付いて、もう片方の手で本を抜き出している先ほどの少女と目が合った。
「あ」
おそらく、そう言ったのだろうと思う。一般部分と幼児部分を区分けしている木とアクリル板を組み合わせた壁によってその声は聞こえなかったけれど。
そういえば、何度も目が合うわりには声は聞いたことがない。向こうも観月の声は知らないだろう。そもそも会話するような場所でもなければ、貸し出しをする時でさえ、職員と会話など、まずしない。どんな声をしているのだろう、そう思ったが、それだけだった。
少女が軽く会釈をするのに、目礼だけ返して、観月は開いているデスクへ腰を下ろした。
__________
書いた感想:もっと甘い方が良かったかもしれない? 見知らぬわけではないけれど、知人ではない。顔見知りの他人と言うイメージですが、どうなんだろう。うーん、難しいな。難しい。三人称も難しい。柳沢とかと図書館に行ったときに、会釈しあうところを見られて勘違いされたら楽しそうだ。でももうこれ年末関係ねー!(笑) リクに添えているといいのですが、どうだったでしょうか…
●跡部景吾 負けねぇぞ! 11/19 20:00-20:21 714字
跡部景吾は氷帝学園の帝王(キング)だ。
しかし、相手は氷帝学園の女王(クイーン)だった。
茶道部用の和室に、まだ年末だというのに和服の跡部と同学年の少女が向かい合って座っていた。
美少年と美少女の、しかも和服という組み合わせに溜息を漏らすような人物はいなかった。そもそも、二人の袖にはタスキがかかっており、相手の顔など見ていない。イグサの上に並べられた四角形の紙面を真剣に見下ろしているのみだ。
同じく和服を着た日吉が、目を細めてから、口を開いた。
「かささ――」
綺麗な払い手が決まる。
「白きを見れば、夜ぞ更けにける」
飛んだ札を手繰り寄せ、紙面を跡部に向け、にやりと少女は笑う。そして札を裏にして脇に置いた。
跡部は悔しそうに眉を寄せる。
少女の陣と跡部の陣を見るに、確実に勝利は少女に傾いていた。
冬休み明けの新学期に、少女のゴリ押しで開催されることになった全校生徒の百人一首大会の練習は、まるで本番とたがわぬ迫力があった。
宍戸・鳳、向日・忍足、芥川・樺地といった面々も参加しているが、下の句が読まれる前に札を取れるものは跡部、少女、日吉、滝のみだった。滝は現在審判を行っているが、芥川が寝そうなので、励ましながら子守をしていた。
日吉は一度全員を見回してから
「由良――」
パンッと綺麗に札が飛ぶ。
「ゆくへも知らぬ、恋の道かな」
下の句を読み上げた声を聞きながら、少女が自陣の札を跡部の陣に置いた。勝利を確信した少女が、ふっくらと目尻を落として綺麗に微笑む。
「秋――」
読み上げられた。
瞬間。
「俺は――負けねぇぞ!」
跡部の声と共に札が舞う。
下の句が読み上げられ――
「跡部、おてつきだよ」
滝の声と、少女が己の取った札を見せながらくすりと笑う声と、悔しそうな跡部の唸りが、室内で重なった。
__________
書いた感想:勝手にDamroschにしてしまったorz跡部は多分百人一首強いと思う。そして三人称のくせに名前変換使いたくなかったから「少女」とか…小細工ですね(^w^;
コメント:てか、このお題難しかったですよ! ネタが出るまで(笑) はい、またメッセしましょうー。勝手にいつもやってるのを企画にしちゃってすみません(笑
●千石清純 買い出し 11/19 ?:??-21:09 834字
オレンジ色の髪をなびかせながら、千石清純は駆け出した。
風が冷たく、頬も耳も痛かった。
後ろを必死で駆けてくる彼女は、少しも清純に追いつきそうもなく、だから、清純は立ち止まって振り向いた。
冬休みも休みなくテニス部員の練習に付き合っている彼女は、実はマネージャーではない。テニス部員ですらない。ただの清純のクラスメイト。の、はずなのだが、ただのクラスメイトは買い出しに付き合ったりなどしないだろう。
やっとのことで清純に追いついた彼女は制服姿にマフラーをまいたままの姿で、顔を真っ赤にしてゼーハーゼーハー体全てで呼吸をしていた。
「ちょっ……なんっ……で……っ」
「チョナンカン?」
清純は軽く握った手を頬に添えて軽く首を傾げて見せた。そんな清純のふざけた態度に「っ急に走るな馬鹿ー!」と、少女が持っていた荷物を振り回して清純を攻撃し始めた。
コートを着込んだ道行く人々が制服姿の少女と、ジャージ姿の少年に奇異な視線を向けるが二人は気にする素振りも見せず、じゃれあいながら道を進んでいく。
木枯らしが強く吹き付ける中
「避けるな千石!」
だの
「じゃあ攻撃しないでよ!」
だの
「逃げるな千石!」
だの
「じゃあ追いかけないでよ!」
だのと、まるで掛け合い台詞のようにポンポンと言葉をぶつけ合う。
「千石、これ重いんだけど」
「あ、じゃあジャンケンしようよ」
全く彼女の荷物を持つ素振りもなく、清純はジャンケンを持ちかけ、グーで勝った。そして自分の持っていた買い物袋を押し付けると「グ・リ・コ・の・オ・マ・ケ」と言って七歩進む。そしてまたジャンケン。「パ・イ・ナ・ッ・プ・ル」清純が六歩進んだ。「チ・ョ・コ・レ・ィ・ト」六歩、清純は進まなかった。
彼女が駆け出して、清純の顔面に向かって買い物袋を振り回したからだ。
追いかけっこをしながら、テニスコートに戻ったときには、この寒さが嘘のように二人の身体はぽかぽかと暖かくなっていた。
火照った二人の赤い頬を見たテニス部員たちに変な勘ぐりをされて、清純は肯定して、彼女は全力で否定した。
__________
書いた感想:うんと、うんと、千石って擦れてるのか少年ぽいのの二つしか脳内にいないんですよね…まだまだクラスメイトな感じですが、仲良い感じが伝わればいいなぁ。
コメント:早瀬さん、ありがとうございます。こんなキヨになってしまいましたが、大丈夫でしたでしょうか? 普段はあまり千石を書かないので楽しく書けました。今更ながらに山吹メンツだけで書いても面白かったかなーと思っているのですが…リベンジは受けつけます。(笑
●六角の誰か 大掃除 11/24 835字
ダビデのダジャレに突っ込むバネさんと、笑う亮に向かって、剣太郎がはたきを振り上げながら「ちゃんとやって!」と怒鳴る部室。俺と聡はバケツの中で雑巾を絞っている最中だった。
部長らしく厳しく取り締まっている剣太郎は「サエさんも笑ってないで!」とはたきを指揮棒のように振り回してビシッと俺を指した。いっちゃんだけは黙々と壁を拭き続けている。いっちゃんの拭いた部分は元々の壁の色を取り戻して、逆に周囲になじまないくらいになってしまっていた。天井まではやりたくないなぁ、と炭と煙で黒ずんだ天井を見上げる。
「サーエーさん!」
「ごめんごめん」
剣太郎に頭をはたかれて、机を拭いてから、一度部室の外に運ぶ。今日は風が強くないし、太陽の光があるので、けっこう暖かい。私服の上にジャージを着ている厚着の所為かも知れないけど。太陽の眩しさに目を細めてから、部室に戻ると、剣太郎は、今度はダビデを叱っていた。いっちゃんは一心不乱に掃除している。綺麗な部分が、3センチくらい増えた。
「ダビデ、ダジャレを考えるのは後にして、掃除しないと。この後のお楽しみの鮮度が落ちるよ?」
俺の言葉に、何故かダビデは黙り込んだ。そして。
「このダビデが!」
何か言う前にバネさんがとび蹴りで突っ込む。
「バネさん早い!」
「どうせダジャレ考えてたんだろうが!」
ヘッドロックをかけられたダビデと、ギリギリ締め付けるバネの後ろに鬼が見えた。
俺といっちゃんと亮と聡は、とばっちりを受けないために、あわてて壁にだけ視線を向ける。ダビとバネは一緒に正座させられて剣太郎の説教の餌食になっていた。なんでちゃんとやってくれないの! と、憤っている剣太郎の後ろで聡が人差し指を両方立てて、鬼のツノの真似をした。思わず、俺と亮が噴出すと、俺達の異常に振り返った剣太郎の目と、聡の目がバッチリ合う。
――俺達三人は必死で壁を掃除することに専念した。
結局、バネたちを叱っていて一番掃除をしていなかった剣太郎が、今年最後のオジイ作アンコウ鍋を一番食べていて、ダビデがぼそりと不公平だ、と呟いていた。
__________
書いた感想:剣太郎を嗜める黒サエも想像したのですが、剣がガルガルしてるのが書きたくなったので、弱サエです。首藤と木更津兄って、なんて呼ばれてたか…ド忘れです。なんだかいつも「首藤ォー!」って叫ばれてるイメージです(笑
コメント:誰でも良いとのことでしたので、スタンダードにサエ視点ですが、大丈夫でしょうか??
●日吉若 こたつ 夢的 11/25 21:27-21:45 822字
よそ様の家の炬燵に入るというのは、あまり好きではない。
嫌だという訳ではないけれど、慣れないと言うべきか、苦手と言うべきか。一緒に同じ炬燵に入る仲と言うのはそれなりに親しくないと違和感を感じるもののような気がする。
居間俺はその苦手なことをしていた。
ただ、助かったのは、居間ではなく、彼女の部屋に置かれたローテーブルに小さな足元用ハロゲンヒーターを置いて、大きめのブランケットをかけただけの代物だったことだ。
まさか、いくら親しくしていても、居間で一緒に彼女の家族とくつろげるほど俺は豪胆ではないし、そこまでの図々しさも持っていない。逆に言えば、彼女とならばあまり気にならないどころか、むしろ喜ばしくさえ感じる。親しいと思われているのだな、と。もしかしたら、それは俺だけの感覚なのかもしれないけれど。
「今日はありがとーね」
胡坐をかいたまま出された温かい緑茶を飲んでいると、声をかけられた。
「いえ。俺で役に立つのであれば言って下さい」
男手のない彼女の家の洗濯機が壊れてしまったため、それの撤去だの新しいものの設置だのを手伝った。けれど、自分でも手際が悪かったなと少し反省している。朝から作業して、終わったのは昼過ぎだ。一度は水が漏れてしまった。
作業の合間に、昼食をご家族といただいたが、作業後はこうやって彼女の部屋に二人で引きこもっている。さすがにもうご家族に対する気を使いすぎて疲れた。もう、一〇日分はご家族と会話したように思う。
ふと、違和感を覚えた。
視線を彼女の顔へ向けると、明らかにすまし顔を作っていた。
軽く足を伸ばしてやり返すと「なに?」と、明らかに怪訝な顔を作って聞き返してきた。
「いえ、別に」
そう答えた瞬間、先ほどよりはっきりと彼女の足が俺の膝の辺りに当てられ、また引いていった。
今度のすまし顔は、残念ながら唇の端が軽く歪んでいた。笑いをこらえているのだろう。いい年をしてなんて子供っぽい人なんだと思いながら、俺も先ほどより強く蹴り返した。
__________
書いた感想:年上彼女の一歩手前な感じであまりラブラブではないのですが、親しげな感じに仕上がっているといいなぁ。日吉の炬燵感を考えるのが楽しかったです。
コメント:リクありがとうございましたm(__)m まだまだ拙い文章ですが、楽しんでいただけているのでしたらとっても嬉しいです。あんまり夢っぽくならなかったのですが、大丈夫でしょうか…むしろ私の方が緊張しているかもしれません(笑) 宜しければ感想などいただけると嬉しいです。構って下さってありがとうございました!
●仁王雅治 タイピング 夢的 12/24 1394字
帰宅後、仁王はまず真っ先にパソコンの電源をオンにしてメッセンジャーを起動させた。
途端に、ログイン表示になる彼女は、おそらくログイン状態を隠しているのだろうと仁王は思っている。そして、仁王がログインすると同時に、相手は状態の表示を変更するのだろう。
そうして、制服のブレザーを脱ぎながら、相手の反応を待っていると、二秒も待たずポーンという電子的な音と共に『おかえり:)』という赤色の文章が、仁王の目に飛び込んできた。
『ただいま』
仁王はブレザーをハンガーにかけながら、片手でそう打ってエンターキーを押した。初期設定のままの黒い文字が、彼女の赤色の文字の下に現れた。
『部活おつかれさま:)』
『そうでもなか』
『疲れるくらい練習しないと強くなれないと思いますが:P』
『明日はクリスマスじゃのう』
『そうですね』
『急に顔文字外すなや』
その文章を打ったところで、仁王は着替えをすっかり終えて、室内用のティーシャツと、家以外では絶対に着ない大きなウサギの模様の入ったパーカーと、同色のスウェット姿になった。
タイピングに使っていないもう片手で洗濯物をカゴに放り込んだところで、母から「マサ! 洗濯物は早く出しなさい! もう二度と洗わないから!」とヒステリックな声をぶつけられた。
けれど、仁王はそれに「少しまっとって」と適当に返し、次に表れた彼女の文章を眺める。それは文章になっていなかった。
『XD』
『日本語』
即座にそうタイピングし、洗濯物のかごを抱えて洗濯機の前に放り投げるようにしておいてから、また急いで自室へ戻った仁王を出迎えたのは記号の羅列に近いものだった。
『ぅちX'masめッちゃたσιみゃゎ〜p(*≧∀≦*)q』
次の瞬間『日本語ムツカシイですX(』と画面の上に現れた。彼女は純日本人だが、パソコンに関してだけは、インターネットに関してだけは、何故か海外流だ。英語がうまくなりたいという理由でずっと4chで遊んでいたらしくネットスラングばかり覚えてしまったらしい。
今、彼女は遠方にいる。
イブは予定があるが、クリスマスは休めるからと、仁王は彼女と会う約束を取り付けていた。生意気で幸せなことに、今日は丸井も赤也も他の部員も、イブだからと部活を休んだため、部活の内容はあまり激しくなく、ジャッカルのみ真田に「クリスマスだからといってたるんどる!」と八つ当たりのようなものをされていたが、仁王はそつなく部活をこなした。相手が少なかったため、基礎練習や筋肉トレーニング以外はあまり出来なかったというのが本当だが。
『電話せんのか?』
『雅治君の声を聴くのは明日の為に大事に取っておくんです:*)』
一瞬、何とタイピングすればいいのか、迷った。
告白してきたのは彼女で、仁王は普段どおり適当に付き合って飽きられれば別れるつもりでいたはずなのに、もしかしたら立場が逆転しているかもしれない。そう、仁王が思うほど。
三年に上がる直前に転校して行った彼女に、会えない時間が増え、苦肉の策のメッセンジャーでも、最近は物足りない。スカイプを検討し始めているほどの仁王に比べて、彼女はこの不便さと距離を楽しんでいるようだった。
それが仁王には少し悔しい気もするが、そんな彼女が愛しい気もする。
『明日、楽しみにしとるぜよ』
自嘲の笑みを口に乗せて、駆け引きも計算も捨ててタイピングした仁王への返事は、:xという記号とchuという文字だけだった。
__________
書いた感想:タイピングむずっかしかったです。タイピングという言葉自体にもいくつか意味があるので…10分じゃ終わらなかったですが、純情仁王が書けて楽しかったです。セリフが多いので文字数も多くなりますね。
コメント:UPが遅くなってすみません! あまり仁王らしくない仁王ですが、大丈夫でしょうか? サイト運営、頑張ってくださいませ。文章を大好きと言ってもらえてとても嬉しかったです!
●日吉若 こたつ 12/24 1057字
部屋の中央あたりの畳をはがすと、くり貫かれた空間からひんやりした空気があふれてきた。
それを気にせず隣の一枚も剥ぎ、合計四枚の畳を剥ぐと、天井裏の押入れから運んできた座卓を、やはり四脚をずれないようにしっかりと堀の上に設置する。十八人は余裕で掛けられる大きさの掘りごたつが出来上がった。
それから、祝い箸を入れるための箸袋に名前を記入するべく、書道の細筆や硯・墨をひっぱり出す。祖母に渡されていた来客のリストを座卓の上に置き、念のためにノートに名前を書き写してから、箸袋に細筆で書いていく。
まずは家族である祖父母、父母、兄、俺。それから祖父の弟と妹である大叔父と大叔母など、正月に沖縄本家へ挨拶に行かない親戚の名前だの、全く知らない名前もあったが、とにかく丁寧に記名していく。
正月は航空機代やら、渋滞だのを避ける為に、沖縄本家の変わりに東京分家の我が家に来る親戚も多い。大抵、二月くらいに一度本家へ挨拶に行くらしい。つまりはお年玉をせしめるチャンスなので、俺は割合真面目に両親やら祖父母に頼まれた仕事をこなしていた。
俺の小遣いは氷帝中学生としてはかなり少ない三千円で、読書量もあり、部活もあり、親に金を出してもらっているとはいえ、細々としたもので金は消えていく。ただ、氷帝生としては少ないが、そんなものだという奴もいるので、別に少なくて困っているわけでもない。
それでも欲しい古書を買うにはかなり節約しなければならないし、両親は特に壊れるまでは新しいものを買う必要はないという精神があるので、底が磨り減って靴を見ても「まだ履ける」と言ったりしてくるので、それなりに金は貯めておきたい。
三十余名の名前を細い箸袋に書き終えて、それを無造作に袋に突っ込んで祖母に渡した。
◆◇◆
夕食直前、居間のこたつで若が寝こけていた。
生真面目な弟にしては珍しいことと思いながら、先月から何か欲しいものがあるらしく両親の手足としてはしゃぎまわっていた弟なので、仕方がないのかもしれない。しかし、それにしても、冬のこたつの睡眠誘導力は半端ない。
そんな怠惰の権化を眺めながら思案する。
墨では冷たすぎる。油性では臭すぎる。ボールペンでは硬すぎる。
とりあえず、幼い道場生用の◎大変よくできました◎・☆とてもよくできました☆・○よくできました○・*もっとよくできるはず*という若干意味のわからないシールの束を取り出して、弟の鼻に貼ってみた。
祖父ちゃんに指摘されるまで、弟の鼻の頭にはシールがくっつきっぱなしだった。ちなみに俺は兄弟喧嘩で負けたことはない。
__________
書いた感想:日吉の家のお座敷は掘りごたつになるという勝手な設定…なんか同じ小物が続いているので色々妄想力が爆発しました。どんな兄弟なのかとか妄想すると楽しいです。
コメント:こんな感じで大丈夫でしょうか? 冬+日吉=こたつな方程式の方、けっこう多いようですよ(笑) はい、原稿頑張ります! 遅れてしまってすみませんでしたm(__)m
●日吉若 こたつ 連載主人公と日吉の日常一場面的なほのぼの 12/24 930字
私の家にはこたつがないので、若の家のこたつに入るのはちょっと面白い。
うちには床暖房にエアコンがあるので、全然寒くはないんだけど、こうやって人の家のこたつに入るのは、温かいっていうのだけじゃなくて、なんだか不思議な感じがして、少し楽しいなって思う。
今は、若のお母さんとお祖母さんはコクーンシアターとかいうところに、能を観に行っている、とのこと。若のお父さんとお祖父さんは道場をみているらしくて、ちょうど、出掛けのお母さん達とすれ違って挨拶だけはしたけど、若の部屋じゃなくて、若の家の居間で二人っきりというのは珍しくて、いつもほんの少しだけ緊張する。
今の若は、うちに来るときよりリラックスしている感じがして、いつもはかけていない眼鏡も、そういうだるだるした雰囲気を助長させているような気がする。
さっきカゴごとどかんと出されたみかんをもくもくと食べながら、でも、文庫本から目を離さない若にちょっとつまらないような気もしてくる。こたつの中の若の足に、つま先でちょん、と触れてみると「少し待ってろ」と五ミリも残っていない小説のページを見せられた。
急いでる若のスピードなら、確かに一〇分もかからないで読破できる。夏休みの宿題の中で、課題図書の中から一冊を選んで英訳しろ、という宿題があったんだけど、その中の読まなかった一冊を若は読んでいるらしい。
部活の時だって、いつだって、待ってるのは慣れてるはずなのに、今日はなんだか、こうやってほっとかれてるのがとてもつまらない。かまって欲しくてじーっと若を見つめてみても、ちらりともこっちを見ない若。
二個目の蜜柑を剥きおわった私の指はうっすら黄色くなってしまった。こたつとみかん。あとは猫がいれば完璧だなぁ、なんて思う。かまって欲しい時はかまってくれなくて、そうでもない時はからかってくる若が猫かもしれない。
眼鏡のガラスごしの若の目が、小説の紙面を上から下に滑っていくのを、何度も何度も眺めながら、早く若が私をかまってくれますようにと祈るのを、なんだか幸せだと思ってしまう私は、若に飼い馴らされちゃっているような気がする。けど、それでもいいかな、なんて思えちゃって、別にそれがそんなにイヤじゃなかったりして。
悪戯でこたつ布団をめくってみたら「寒い」なんて言う若が可愛くて笑いそうになってしまった。早く彼が本じゃなくて私を見てくれますように。
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書いた感想:いつも通り、なんかぬるい感じです。こたつを活かしきれていないけれど…orz |